作品概要と基本情報
ヨシタケシンスケが初めて手がけた長編絵本『メメンとモリ』は、2023年5月31日にKADOKAWAから出版されました。この作品は、ラテン語の「メメントモリ」(いつか必ず死ぬことを忘れるな)というテーマを基に、著者が考える生死観を3つの物語を通じて表現しています。
本作は「人は何のために生きてるの?」という根本的な問いに向き合う内容となっており、日常の些細な出来事から始まる会話を通じて、読者に深い気づきをもたらします。かわいらしい絵柄と奥深い物語の組み合わせにより、子どもから大人まで幅広い年代に愛されています。
メメントモリの意味と背景
「メメントモリ」とは、ラテン語で「死を想え」「自分がいつか必ず死ぬことを忘れるな」という意味の言葉です。一見すると不吉に聞こえるかもしれませんが、この言葉が伝えるメッセージは決してネガティブなものではありません。
人間は誰もが必ず死を迎えるという事実を認識することで、現在の人生をより大切に、より意識的に生きることができるようになります。ホモ・サピエンスの死亡率は100%という厳然たる事実を受け入れることは、逆説的に、今この瞬間をどう生きるかという問題に真摯に向き合うきっかけになるのです。
ヨシタケシンスケは、このメメントモリの思想を現代の日常生活に落とし込み、子どもたちにも理解できる形で表現することに成功しました。本作を通じて、著者は読者に対して、生きることの本質について考える機会を提供しています。
登場人物の特徴
本作の主人公は、姉のメメンと弟のモリという二人のキャラクターです。この二人の関係性は、単なる兄妹というだけではなく、異なる人生観や価値観を象徴する存在として機能しています。
メメンは冷静で落ち着いた性格をしており、物事を客観的に捉える能力に長けています。一方、モリは情熱的で、感情的に物事に反応する傾向があります。この対照的な二人のキャラクターが織り成す会話を通じて、読者は異なる視点から人生について考えることができるようになります。
メメンとモリの関係は、兄妹というよりも、理性と感情、冷静さと情熱といった相反する要素の調和を表現しているとも言えます。二人の対話を通じて、人生における様々な問題に対して、複数の視点からアプローチすることの重要性が浮かび上がってきます。
三つの物語の内容と意味
第一話:『メメンとモリとちいさいおさら』
最初の物語は、メメンが作ったお皿をモリが割ってしまうというシンプルな出来事から始まります。「世界にひとつしかないお皿なのに」と落ち込むモリに対して、メメンは「大丈夫よ、また作ればいいんだから」と励まします。
この物語が問いかけるのは、失ったものに対する執着と、それをどう受け入れるかという問題です。モリの落ち込みは自然な感情ですが、メメンの言葉は、失ったものは取り戻せなくても、新しいものを作ることはできるという前向きな視点を提示しています。
人生において、私たちは様々な喪失を経験します。大切なものを失うことは誰にでもあります。しかし、その喪失から立ち直り、新たに何かを創造していく力を持つことが、人生を豊かにしていくのだという教訓が、このシンプルな物語に込められています。
第二話:『メメンとモリときたないゆきだるま』
二番目の物語では、メメンとモリが雪だるまを作ります。夜のうちに降った雪を使って、次の日の朝に張り切って作り始めるのですが、雪が足りず、さらに晴れて溶けかかってしまいます。その結果、できあがった雪だるまは、二人が想像していたものとは大きく異なってしまいます。
複雑な表情で雪だるまを見つめるメメンとモリですが、興味深いことに、その雪だるまには意識があり、二人の顔を冷静に見つめているのです。この物語は、期待と現実のズレ、そして予期しない結果に対する向き合い方について考えさせます。
人生では、計画通りに進まないことがほとんどです。努力しても期待した結果が得られないことも多くあります。しかし、その過程や予期しない結果の中にも、新たな価値や意味を見出すことができるのだという視点が、この物語を通じて示されています。
第三話:『メメンとモリとつまんないえいが』
三番目の物語では、メメンとモリがつまらない映画を見てしまいます。二人は「時間を損したね」と話し始めるのですが、その会話の中で、時間の価値や人生における「損」と「得」の概念について深く考えていくことになります。
モリは「みんなは楽しいことをしているのに、ぼくだけ損をしているみたい」と思い始めます。しかし、メメンは「いきものはべつに楽しむために生きているわけじゃないからね」と返すのです。この言葉は、人生の目的が必ずしも楽しさや喜びの最大化にあるのではないということを示唆しています。
この物語を通じて、著者は読者に対して、人生における「成功」や「幸福」の定義を問い直すよう促しています。つまらないと感じた経験も、退屈だと思った時間も、人生の一部であり、それらすべてが人生を構成する要素なのだという視点が提示されているのです。
ヨシタケシンスケの哲学と人生観
ヨシタケシンスケは、デビュー10周年を迎える時期に本作を発表しました。50歳という人生の転機を迎えた著者が、「人生後半戦感がすごい」と語るように、この作品には著者自身の人生経験と深い思索が反映されています。
本作に込められたヨシタケ哲学は、生きることの意味を問い続けることの大切さを強調しています。著者は、「生きる意味」や「生きる目的」が必ずしも明確に存在する必要はないのではないかという問いを提示しています。むしろ、その問いに向き合い続けることが、人生を豊かにしていくのだという視点が、本作全体を貫いています。
ヨシタケシンスケの作品は、常に読者に「考える」ことを促してきました。本作『メメンとモリ』も例外ではなく、かわいらしい絵柄と一見シンプルな物語の背後に、著者の深い思想と読者への問いかけが隠されています。
作品の特徴と読みどころ
かわいらしい絵と深い物語の融合
本作の大きな特徴は、ほのぼのとしたかわいらしい絵柄と、深い思想的内容の組み合わせにあります。子どもたちは絵の可愛らしさに惹かれ、大人たちはその背後に隠された意味を読み取ることができます。
この二重構造により、本作は子どもから大人まで、異なるレベルで楽しむことができる作品となっています。子どもにとっては、メメンとモリの会話を通じて、人生について初めて考えるきっかけになるかもしれません。一方、大人にとっては、自分たちの人生経験と照らし合わせながら、新たな気づきを得ることができるのです。
キャラクターの背景と著者の思い
本作には、キャラクターの背景や著者の思いが随所に隠されています。一見すると単純に見える物語も、丁寧に読み込むことで、様々な層の意味が浮かび上がってきます。
例えば、メメンとモリという名前自体が、「メメントモリ」という言葉から派生しており、この作品全体のテーマを象徴しています。また、二人のキャラクター設定も、異なる人生観を表現するために意図的に設計されているのです。
読者の考察力を試す構成
本作は、読者の考察力を試す構成になっています。物語の表面的な意味を理解するだけでなく、その背後にある著者の意図や、自分自身の人生経験との関連性を考えることが求められます。
このような構成により、本作は単なる子ども向けの絵本ではなく、読者が何度も読み返し、その度に新たな発見を得ることができる作品となっています。読むたびに響く言葉や新しい発見があるというのは、本作の大きな魅力の一つです。
本作が提示する人生観
生きることの本質への問い
本作が最も根本的に問いかけるのは、「人は何のために生きてるのか」という問題です。この問いに対して、著者は明確な答えを提示するのではなく、読者自身がその問いに向き合うことの重要性を示唆しています。
人生の意味や目的は、人によって異なるかもしれません。また、同じ人であっても、人生の段階によって変わるかもしれません。本作は、そのような多様性を認めながら、それでもなお、人生について考え続けることの価値を伝えています。
無常観と現在への向き合い方
本作に流れる無常観は、仏教的な思想にも通じるものがあります。すべてのものは変化し、やがて消滅するという認識は、決してネガティブなものではなく、むしろ現在の瞬間をより大切にするための視点を提供します。
メメンとモリの物語を通じて、著者は読者に対して、今この瞬間をどう生きるかという問題に真摯に向き合うよう促しています。失ったものに執着するのではなく、今できることに目を向けること。期待と異なる結果に落ち込むのではなく、その中に新たな価値を見出すこと。つまらないと感じた経験も、人生の一部として受け入れること。
輪廻転生と生命の循環
本作では、輪廻転生や生命の循環についても触れられています。割ったお皿は新しく作ることができ、溶けた雪だるまも、また別の形で自然界に戻っていきます。このような循環の中で、人生も捉え直されています。
個々の人間の人生は有限ですが、その人生が何らかの形で他のものに影響を与え、世界全体の循環の一部となっていくのだという視点が、本作に込められているのです。
読者へのメッセージと影響
モヤモヤしながら生きる人への寄り添い
本作は、「モヤモヤしながら生きる人へ寄り添う物語」として位置づけられています。人生に確実な答えを求めている人、人生の意味について悩んでいる人、現在の人生に満足していない人など、様々な悩みを抱える読者に対して、本作は優しく寄り添うメッセージを発しています。
著者は、人生に完全な満足や確実な答えがなくても、それでいいのだというメッセージを伝えています。むしろ、その不確実性の中で、自分たちがどう生きるかを考え続けることが、人生を豊かにしていくのだという視点が提示されているのです。
希望を見出すための視点
本作は、決して悲観的な作品ではありません。むしろ、人生の困難や不確実性を認めながらも、その中に希望を見出すための視点を提供しています。
メメンの「また作ればいいんだから」という言葉、雪だるまが冷静に二人を見つめる姿、つまらない映画の中にも何らかの価値があるかもしれないという視点。これらすべてが、読者に対して、人生における困難や失敗の中にも、新たな可能性や価値が存在することを示唆しています。
大人が読むべき理由
本作は、子ども向けの絵本として出版されていますが、むしろ大人こそが読むべき作品です。人生経験を積んだ大人だからこそ、本作に込められた深い意味を理解し、自分たちの人生と照らし合わせながら読むことができるのです。
50歳を迎えたヨシタケシンスケが、人生後半戦を前にして問いかける「生きる意味」という問題は、多くの大人たちが直面する問題でもあります。本作を通じて、著者は読者に対して、人生の後半戦をどう生きるかについて考える機会を提供しているのです。
また、本作は親子で読むのにも適しています。親が子どもに本作を読み聞かせることで、親自身も改めて人生について考える機会を得ることができます。そして、その過程で、親子の間に深い対話が生まれるかもしれません。
本作の社会的意義
本作が出版された2023年は、社会全体が様々な不確実性に直面していた時期でもあります。パンデミック、経済的不安、環境問題など、多くの人々が人生の意味や目的について改めて考える機会を持っていました。
そのような時代背景の中で、本作は多くの読者に受け入れられました。本作が提示する「生きる意味を問い続けることの大切さ」というメッセージは、不確実な時代を生きる人々にとって、大きな支えになったのです。
また、本作は、子どもたちに対して、人生について深く考える習慣をつけることの重要性も示唆しています。早い段階から、人生の意味や目的について考える習慣を持つことで、子どもたちは、人生の困難に直面した時により強い心を持つことができるようになるかもしれません。
読み方のコツと楽しみ方
複数回読むことの価値
本作は、一度読んだだけでは、その全体像を理解することが難しい作品です。複数回読むことで、初めて見えてくる意味や、新たな発見があります。
一度目は、物語の表面的な意味を理解することに集中してください。二度目は、メメンとモリの会話に隠された著者の意図を探してみてください。三度目は、自分自身の人生経験と照らし合わせながら読んでみてください。このように、読むたびに異なる視点から本作に向き合うことで、その深さを味わうことができるのです。
子どもとの対話を通じた理解
本作を子どもに読み聞かせる場合、その後の対話が非常に重要です。子どもがどのように物語を理解したのか、どのような感想を持ったのかを聞くことで、大人も新たな視点を得ることができます。
子どもの素直な感想や質問は、大人が見落としていた本作の側面を照らし出すかもしれません。親子で本作について対話することで、人生について一緒に考える貴重な時間が生まれるのです。
著者の他の作品との関連性
ヨシタケシンスケは、これまで多くの作品を発表してきました。本作を読む際に、著者の他の作品も参考にすることで、より深い理解が可能になります。
著者の作品全体を通じて流れるテーマや視点を理解することで、本作『メメンとモリ』がどのような位置づけにあるのか、そして著者の人生観がどのように進化してきたのかを知ることができるのです。
まとめ
『メメンとモリ』は、ヨシタケシンスケが初めて手がけた長編絵本として、「人は何のために生きてるのか」という根本的な問いに向き合う作品です。ラテン語の「メメントモリ」をテーマに、著者が考える生死観を3つの物語を通じて表現しており、かわいらしい絵柄と奥深い物語の組み合わせにより、子どもから大人まで幅広い年代に愛されています。本作は、失ったものへの向き合い方、期待と現実のズレへの対処法、人生における「損」と「得」の概念など、人生の様々な場面で直面する問題について考えさせてくれます。複数回読むことで新たな発見が得られ、子どもとの対話を通じて、人生について一緒に考える貴重な時間が生まれるのです。
ヨシタケシンスケ『メメンとモリ』完全ガイド:メメントモリが導く「生きる意味」を子どもと大人が考える3つの物語をまとめました
『メメンとモリ』は、単なる子ども向けの絵本ではなく、人生について深く考えるための道具として機能する作品です。著者が50歳という人生の転機を迎えた時期に発表した本作には、人生経験を積んだからこそ見えてくる世界観が表現されています。メメンとモリという二人のキャラクターを通じて、異なる視点から人生を捉え直すことができます。本作を読むことで、読者は自分たちの人生について改めて考える機会を得ることができるのです。不確実な時代を生きる現代人にとって、本作が提示する「生きる意味を問い続けることの大切さ」というメッセージは、大きな支えになるでしょう。親子で読むことで、世代を超えた対話が生まれ、人生について一緒に考える貴重な時間が生まれるのです。














